ビッグデータによる行動の理解では態度はわからないという批判の再検討  

ビッグデータによる行動の理解では態度はわからないという批判の再検討

『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』の2013年10月号において、コトラーはビッグデータに言及している。コトラーは、ビッグデータの可能性について、行動(ビヘイビア)と態度(アティチュード)は別のものであるとして、双方を切り分けて考えることの重要性を指摘する(p.58)。

 コトラーに従えば、ビッグデータは行動に関わる。そして、どんなに行動結果が明らかになろうとも、其の行動結果を引き起こした理由や背景となる態度はわからない。もっと言えば、態度は、結局聞かねばならないと言う(ちなみにこの点に関連して、コトラーは脳の反応を捉えるニューロ・マーケティングについても、わかるのはあくまで行動であると指摘している(p.59)。非常に興味深い)。
  確かに、行動と態度を分離すれば、ビッグデータは総じて行動の側に位置づけられよう。その上で、なぜそのように行動したのかについては、別途、顧客に聞く作業が態度の確認として重要になる。結果、ビッグデータの価値はある程度相対化される。
 しかし、こうして行動と態度をわけて考えることについては、特に態度の位置づけに問題が生じるように思われる。すなわち、行動に対する理由や態度は、直接聞いたところで、正直に言ってもらえるかどうかはわからない。嘘をついているかもしれないし、それ以前に、噓も本当もないかもしれないからである。聞かれたときに始めて、それはどうしてだっただろうか?と思うかもしれない。
  コトラーの指摘は、それなりに納得的である一方で、ビッグデータに対する批判としてみた場合にはかなり弱い印象を受ける。確かに行動がわかっても態度はわからないが、だからといって、別の形で態度を明らかにする方法があるわけではないからである。
  そこで、むしろ、次のように考えたらどうだろう。我々は、多様な行動から態度を読み解こうとする「傾向」を持っている。その傾向にこそ、注目すべきではないかというわけである。コトラーの指摘を我々の認識に合致する形で読みなおせば、行動と態度の双方が大事なのではなく、行動から態度を読み解こうとする人々の傾向を捉えることが大事ということである。
  さて、それはいかなる形で行なわれることになるだろう。なによりそれは、メタレベルでの分析を必要とすることになる。単にビッグデータを利用したり読み解いたりするのではなく、そうして読み解いたり利用すること自体を分析の対象とするからである。この分析は、実務家が行なうというよりは研究者が行なうと言った方がわかりやすいかもしれない。
  しかし、この分析は、実務家自身も行なわねばならない分析であろうと思われる。コトラーの議論に差し戻して言えば、ビッグデータでは態度はわからないからである。メタレベルでの分析を欠くビッグデータの利用は、それゆえに期待した成果を上げることはないだろう。
 メタレベルでの分析は、実務家自身の立場からは、内観という形をとることになる。すなわち、自分たちがビッグデータを読み解いたり利用したりしているまさにそのときに、どうしてそのような読み解きや利用をしているのかを問い直すわけである。
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 ところで、コトラーの批判に乗って議論すればこそ、ビッグデータからは態度がわからないということが問題となるのであった。であるのならば、むしろ積極的に、ビッグデータを通じて行動が明らかになれば、そもそも態度など知る必要はないということはできないだろうか。実際問題として、ビッグデータに期待されているのは、まさに行動一元論であるようにも見える。例えば行動を結果として捉えれば、PCDAをまわすがごとく、結果を見ながらプランを修正して行けばいいともいえる。
  確かに、その可能性はある。だが、その可能性を認め、態度など等必要がないとした上でも、先のメタレベルでの分析と内観による分析は有効性を失わないだろう。これらの分析は、そもそも相手の態度を捉えるための方法ではなく、むしろ自分の態度、より正確に言えば、ビッグデータとの関わりを考察するためのものだからである。
  ようするに、これらの方法は、最初から相手の態度を明らかにするということを目的にしていない。その意味においては、コトラーが態度の重要性を指摘するのに対して、むしろ我々は、ビッグデータ一元論に積極的に与する。ただ、こうした一元論とも我々が異なるのは、ビッグデータがあればすべてがわかるのではなく(より正確に言えば、わかるかどうかは問題ではない)、ビッグデータに何にせよ関わろうとする自分たちに注目するという点なのである。

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2013年08月14日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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