脳科学で消費者行動はどのくらい明らかにできるか:試

例えばこういうことではないだろうか。消費者がものを買う瞬間、脳のある部位Aが活性化するとする。それゆえに、Aの活性化を事前にシミュレーションして商品開発を進めることで、より売れる商品を事前に作り込むことができるようになると期待される。

 部位Aの活性化→購買行動という分りやすいモデルがつくられるわけだが、このモデルは、脳によらずとも、直接本人に聞いても機能する。購入意向→購買行動というわけである。
 「部位Aの活性化」→「購買行動」
 「購入意向」→「購買行動」
  部位Aの活性化と購入意向の違いは、言うまでもなく、それが本心かどうかということによる。本当に購買行動につながるのかどうかだ。言うまでもなく、購入意向のような曖昧な気持ちは、大体あてに立たない。だからこそ、購入意向と部位Aの活性化は、その質において、精度において異なることが強調される。
  ただ、部位Aの活性化を可能にした商品が、果たして購入意向よりも購買行動に結びつくものでありうるかどうか、この点ははっきりとしない。個人的には、その精度は、購入意向とほとんど変わらないように思われる。この点については、2つの大きな問題がある。
  第一に、部位Aの活性化は、購入意向とは独立している必要がある。もしそうでないのならば、少しでも相関がみられるのであれば、部位Aの活性化を調べることは、購入意向を調べることと同義であり、コストを考えれば、圧倒的に購入意向を調べた方が話が早い。
  そもそも部位Aの活性化が購入意向と独立であるとは、我々の購入意向とは別の何かによって、我々の購買行動は決められているということを意味する。そのような購買行動は、私たちにとって、可能だろうか。もちろん、調査という点に限って言えば、購入意向を調べるという場合には、被験者は嘘をつく、あるいはいい加減に答えるという可能性がある。これに対して、部位Aの活性化には嘘がない、ということはできる。しかし、購入意向を聞く際に嘘を減らすことが不可能なわけではない。これもまたコストの問題ということになろう。
  もう一つ問題であるように思われるのは、部位Aの活性化が実際の購買行動に結びつくかどうかは、実際に人々がそれを買うことによって証明されることになる。この決定的なタイミングにおいて、まさに私たちが嘘をつくという可能性は基本的に排除されない。すなわち、部位Aが活性化していることを前提としても、私たちは、それとは異なる商品を買うことができるように思われる。なぜならば、それが購入意向といえるような私たちの意志だからである。
 「部位Aの活性化」=「購入意向」 ならば 「購入意向」を直接聞けばよい
 「部位Aの活性化」/=「購入意向」 ならば 私たちは私たちの意向により、「部位Aの活性化」を無効にできるだろう
  このように考えてみると、どこまでいっても、私たちは購入意向を問題にせざるを得ないと思う。その曖昧さや怪しさは、何かによって解消することはできない。繰り返していえば、そのような解消方法が見いだされるとき、私たちは、その解消方法を無効にするような意向を常に持ちうるからである。もちろん、これは程度問題にすぎないし、極論である。けれども、もしそうであるのならば、結局のところ、私たちは購入意向を素直に問題にすればいいだけなのである。

2013年08月14日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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