上司の役割、教師の役割

上司の役割、教師の役割

先日、平井さんに「営業リーダーの役割」の資料をもらいました。従来的な重要な役割として「リーダーシップ」と「マネジメント」があり、今後より重要になる役割としてもう一つ「キャリアデザイン」があるということでした。営業リーダーたるもの、リーダーシップを発揮してチームを引率し、成果を上げるべく効果的なマネジメントを考える。そして今では、それだけではなく、チームの一人一人の能力を引き上げ、彼らのキャリアデザインに寄与できるようにするというわけです。

確かに、今日の企業で求められるリーダーの役割は、これら3つに総じて集約されるように思います。特に三つ目のキャリアデザインは、かつてであればマネジメントと一緒になっていたり、あるいは個々人の問題であるとみなされていたように思いますが、それが分離されてリーダーの役割となりつつあります。昔よりも大変になっている、といえるのかもしれません。

そんなことを考えながら、教師の役割(特にゼミのようなものを考えた時)は、キャリアデザインだけなのかなと思ったりしました。求められている成果はそれこそ教育成果となりますので、最初からキャリアデザインだけにフォーカスされています。リーダーシップやマネジメントはその実現のための手段に近く、チームやゼミで何かパフォーマンスをあげる必要もありません。

企業では、しばしば組織の目標と個人の目標は乖離します。そこで外発的動機づけや内発動機づけの問題、あるいは組織の目標と個人の目標の一体化のようなことが目指されるわけですが、今日のリーダーの役割もまた、こうした目標の乖離に対応した試みであるようにみえます。個人の目標としての側面が強いキャリアデザインをリーダーが組織の目標としても組み込むことによって、両者の統合を図るというわけです。

教師の場合はどうでしょうか。教師は個人の目標の実現にコミットするようにみえます。組織の目標は、せいぜいテストの点数を上げる、合格者を増やす、内定者を増やすといった程度であり、これ自体が個人の目標と合致します。目標が乖離することはあまり想定できず、もし実際に個人の目標から乖離する組織の目標が設定された場合、おそらくゼミのような組織は成立しません。金銭を与えるというような選択肢もありません。

企業のリーダーは3つもやらないといけないことがあり、大変であるようにもみえます。とはいえそれが大変なのは、組織の目標と個人の目標の一致という課題があるからだと言えます。そして、実際のところ、組織の目標はおおよそ売り上げや利益の向上として固定されていることを考えれば、明確な目標に対して個人の目標をどう寄せていくのかということに収斂するとも言えます。

一方で、教師が直面する個人の目標の達成は、企業におけるキャリアデザインとは異なる点として、組織の目標が明確ではなく、もっといえば、個人の目標もかなりあやふやであるようにも思います。広義のキャリアデザインというべきかもしれませんが、それは社内で偉くなったり、特定のスペシャリストになっていくということよりも広く、人としてのキャリア、のようなものが想定されます。これ自身に当人をコミットさせたり、あるいはそのような可能性があることを示し、そのための活動が必要になることを示すこと、そのためにリーダーシップやマネジメントが手段として発揮する必要がでてきます。

まあ結局のところ、企業のリーダーもいろいろしないといけなくなっているし、教師は教師で、大変な作業の実現に向け、企業のリーダーシップ研究などいろいろ学ぶ必要があるということではあります。もちろん、どれもこれもそれ自体一人でやる必要もないわけですが。


2019年12月26日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

関連記事