セグメンテーションやターゲティングは難しい

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マーケティングの授業では、だいたいSTPを教えます。まずは、セグメンテーションとして、市場を似たようなもの同士でまとめます。市場といっても一枚岩ではないですよ。次に、ターゲティングとして、その中で誰が今回のお客さんとしてフィットしているのかを考えます。その上で、彼らが求めている機能を改めて考え、類似品や類似サービスとどのように異なるのか、自社製品やサービスの独自性をポジショニングとして考えます。

頭文字をとってSTP。応用や例外はもちろん色々ありそうですが、考え方だけ説明しようと思えば10分もいらない内容です。具体的に、、というわけで事例を紹介しながら説明しても、一回の講義があれば事足りるでしょう。次の1時間は実習しながら理解を深めるという手もありそうです。学生の皆さんにやってみてもらった例はこちら

そんな次第で、頭ではすぐにわかりますし、やろうと思えばそれ自体もそんなに難しくなさそうなのですが、ちゃんとした企画として作り込んでいこうとするととても難しい作業のようです。「ようです」というのは、僕自身はそんなに実際に企画をする立場ではないので、色々な企画を聞いていてそう思うということではあります。

よく見るような気がするパターンをまとめてみました。

1。セグメンテーションもターゲティングもないパターン

以外にも結構多い気がするのはこちら。どういう市場を想定していて、一体全体、誰がお客さんなのかが示されていないパターン。希望者に向けて、みなさんに向けて、あるいはせいぜい若い男性や女性に向けてといったようなパターンが含まれます。もちろん、全員向けのマス・マーケティングを考えることもできますが、それはそれで分析と準備が必要です。そもそもあんまり考え込まれていないことが問題。ここは枠組みだけを教えれば、まずは考えられるようになりそうです。合わせて、提供する製品やサービスが漠然としているという場合もあります。企業全体のようなものを想定すると、いろいろ作っているし、いろいろやっているし、多分当てはまりは悪いでしょう。STPを軸としたマーケティング・マネジメントは、全社戦略のために考えられたわけではないからですね。こちらは戦略的マーケティングを考えることになります。

2。市場は無限パターン

いずれにせよ、マス・マーケティングが魅力的に見えるのは、市場規模が大きくなるからでしょう。たくさん売れた方がうれしいとすれば、市場規模をできるだけ大きく見積もり、誰にでも買ってもらえるようにした方がいいことになります。そしてもちろん、その結果平凡な商品やサービスが生まれ、誰にも買ってもらえないということになるわけですが・・・。市場はできるだけ絞り込んだ方がいい、という発想が、セグメンテーションやターゲティングのベースにはあると思います。エッジが尖った商品やサービスをどこまで通すことができるか、マーケターの力量が問われる時でもあります。

3。私が欲しいものパターン

とはいえ、2の逆になりますでしょうか。企業の場合にはあまりないかもしれませんが、学生などだと比較的考えやすいパターン。実際、まずは自分が欲しいものをよく考えてみてくださいといった提示の仕方はありえます。しかし、それが最後まで続いてしまうと、エッジが尖っているを通り越し、もはやなんだかわからないことになります。一人セグメントでは収支が合わないわけですから、その欲しいものが自分に対応しているのでなく、自分の抱えている問題に対応していて、その問題は他の人々にとってもある程度同様であるということまでが考えられていないと、思い込み商品となりそうです。この辺りは、顧客(誰が)と機能(何を)を切り離す思考の訓練が役に立つかもしれません。

4。まくらにしかならないパターン

1のあんまり考えられていないパターンとかなり重なりますが、こちらは、ちょっとはセグメンテーションやターゲティングがわかっているよ的な感じも醸し出しており、たちが悪いパターンです。騙される人もいるかもしれませんが、多くの場合は逆であり(そんなに高度ではないので)、企画書の最初の段階で落とされます。よくあるのは、デジタル世代に向けてですとか、悟り世代に向けてですとか、コーホートをそのままセグメントにするやり方です。もう少しセグメントっぽく、子育て世代に向けてとか、上昇意欲の高い方、みたいな場合もあります。確かに、それでいい場合もありえます。そこが厄介でもあるのですが、だいたいこの手の世代感覚や時代感覚は、企画書のまくらとして使う程度のそんなに意味はない定型文の一つであり、(今日のグローバル時代に備え、ですとか、デジタル時代に向け、ですとか、あるいは一億総活躍のため、ですとか)、セグメンテーションなどに落とし込むには多分不向きです。

5。企画の過程で揺らぐパターン

そしてとりあえず最後に(これを書こうと思っていたわけですが)、一応のターゲットが決まっていながらも、ある程度のボリュームのある企画書の中で、揺らぎがみられるというパターンがあります。今回セグメンテーションやターゲティングが実際には難しいものなのだなと思ったのは、これでした。子育て世代の家庭、一般的なサラリーマンとパートタイム主婦、首都圏在住と細かくしていったとして、しかしある企画の部分では主婦だけに目を向けていたり、あるいはある部分では別に首都圏でなくてもいい、みたいなことが起こりえます。そのことに自明であればいいわけですが、気づかないうちにちぐはぐになっていると、全体像として結局お客さんが誰なのかがわからなくなります。色々な要因はありそうです。長い企画書を貫通することは難しいことですし、実際には一人ではなくたくさんの人で作業するわけですし、本意ではなく説得のレトリックのようなものも入り込んでくるかもしれません。これらをどこまでうまく切り分け、明確なお客さん像を描き続けられるのかということは、マーケターの重要な任務であるようにも思います。ペルソナを考えましょうとか、あるいは先に戻って自分自身の問題意識から離れないようにしましょうといった考え方が、改めて求められるそうではあります。

まあなんにせよ、思ってもみない人が使っていた!、ですとか、思いもよらない利用のされ方をしていた!、といったこの後のフィードバックこそが、より興味深く、また継続的なマーケティングにとっては重要になるところではあります。

 


2020年04月15日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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