第3章 デジタル経済化と消費者の変化(3年 太田)
本章は、デジタル化の進展のもとで、消費者がどのように変化し、その変化によって生じた新たな消費形態について論じている。デジタル空間の成立により、人々の社会的つながりは多極分散化・匿名化し、消費者のアイデンティティ形成のあり方が変化した。その結果、消費者は製品やサービスの選択を通じて自己を表現・構築するようになり、新たな消費形態が生まれている。
本章は大きく三つの観点から構成される。第一にデジタル化による社会および消費者の変化、第二に消費を通じたアイデンティティの構築、第三にそれらが具体的な消費の拡大にどのようにつながっているかである。
まず、デジタル化がもたらす社会の変化として、リキッド・モダニティとデジタル空間の成立が指摘される。リキッド・モダニティとは、社会的枠組みが流動化し、個人のアイデンティティや生活様式が固定されない不確実な状態を指す。この中で特に顕著なのが人間関係の流動化であり、職場や地域との結びつきが弱まる一方で、SNSを通じた選択的で流動的なつながりが強まっている。また、デジタル空間の成立により、つながりは多極分散化・匿名化し、社会的属性から解放された関係構築が可能となっている。
次に、消費を通じたアイデンティティの構築についてである。ここでは、アイデンティティが受動的に与えられるものから、能動的に選択し続けるものへと変化したことが指摘される。消費を通じたアイデンティティの構築の今日的特徴として、第一に流動性を重視した「アイデンティティ・プロジェクト」があり、その時々の適切性を優先する意思決定や、即時的満足を重視する「リキッド消費」が志向される。第二にアイデンティティの多元化があり、複数の自己を並行して構築し、状況に応じて使い分けることで、変化への適応やリスク分散が図られる。デジタル空間はこれを容易にし、新たな自己の構築を可能にしている。
そして、こうした変化に基づく新たな消費形態についてである。第一に、価値観や所属意識を表現する「政治的消費」が拡大している。これは購買や不買を通じて社会的立場を表明する行為であり、SNSによるコミュニティ形成によって支えられている。第二に、柔軟で短期的、アクセス・ベース、脱物質的な「リキッド消費」が広がっており、柔軟性や即時性、離脱容易性といった価値が重視される。第三に、「秘密消費」がある。これは他者に隠す意図を伴う消費であり、デジタル技術によって実践が容易になっている。特定のコミュニティ内で共有されることで帰属意識を高める側面も持つ。
最後に、本章ではすべての消費者がリキッド消費を志向しているわけではない点も指摘されている。過度な流動性がもたらす不安や疲労に対する反動として、安定性や継続性を重視する「ソリッド消費」(LOHASやスローライフなど)が再評価されている。今後は、このようなカウンター・カルチャーや消費も含め、アイデンティティ構築のあり方と消費の形態はさらに多様化していくと考えられる。
本章を読んで、デジタル化によって生まれた消費のあり方を、自分の身近な経験と結びつけて理解することができた。私はSTARTO ENTERTAINMENTのタレントのファンであるが、ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の問題が取り上げられた際、それでもタレントを起用していた企業の商品をファンが積極的に購入し、その行動をXで共有する様子が見られた。こうした行動は自然な応援だと感じていたが、本章を通じて、価値観を表明しコミュニティとのつながりを強める消費として捉えられると分かり、印象に残った。また、このような消費は他者との共有を前提とする点で、個人の選択が周囲の影響を受けやすい側面もあると感じた。今後は、自分の消費行動についても、その背景にある価値観や社会との関係を意識して捉えていきたい。