2015年度ゼミ募集の課題で思ったこと

例年ゼミ募集では限られた時間ながら面接をしてきたのですが、2014年度は在外研究で不在ということで、面接無しの書類審査をさせていただきました。新しい試みでしたのでうまくいったのかどうかは次年度以降にならないとわかりませんが、個人的にはいろいろと興味深く、面接しなくてもこれで大体いけるのではないかと思った次第でした。備忘録がてらまとめておきます。

課題はシンプルで、「E!の第2号を読んで思ったことをまとめてください」ということでした。E!は、今年度から始まった内部観測に関するエウレカ・プロジェクトの電子雑誌です。ただ課題はシンプルながら、すでにこの段階で、いくつかの注意すべき点があろうかと思います。大きな点として二つ確認しておきたいと思います。これ自体が、採点の基準だったともいえます。第一に、課題書類には、いわゆる「志望理由」のようなものはありません。なぜないのか。考えていただく必要があろうかと思います。第二に、E!は、非常に領域横断的な雑誌であり、ちょっとした本ぐらいの分量があります。これをどう読めばいいのか。ここも、ちょっと試されてしまっているわけです。

第一の志望動機がない理由は、書いていただくことにあまり意味がないと思っているからです。それが本当かどうか(笑、と言ってしまえば個人的な研究テーマにもリンクしますでしょうか。本質直観の本を読んでいただければ、なんとなくわかるかもしれません。動機を意図と読み替えていただければ、別途エッセイを読んでいただいても、関連するような話はあるかもしれません。

もっとこれまでの経験上の話を言えば、この方はやる気があるなと思ってゼミに来た方でも、時間の中でやる気は変化すると思います。逆に、どうかなと思った方が意外に積極的に参加してくれることもある。前半はやる気があって、後半はなくなる方もいる。個人の動機というのは、だいたいその程度のものだと思います。僕の運営上の課題もあるでしょう。

第一の点にも関連して、志望動機なるものは、結局のところ、凄い興味がありますとか、昔からめちゃくちゃ勉強したいと思っていました、という表現ではなく、当の課題にどう答えるのかという記述によってはかられることになると思います。その意味で、第二の問題はより重要です。この変わった雑誌をどう読み、何を書くのかという直接的な問題だからです。だいたい次の方向を予想していました。

一つは、僕が担当した読みやすいところだけを議論する方法。経営学のテーマはそこだけですので、そこだけ読めば、最小限の記述は可能になります。と同時に、この記述は非常に難しいものとなります。アントレってすごいな、ということを言いたかったわけではないからです。その意味をどこまで汲み取れるか、あるいは、素直に汲み取ってなお、こちらに驚きを与えられるような記述ができるかどうか。

多かったのは、これまでの経験とアントレ的な創造力を重ね合わせる書き方でした。これは志望動機を書く方法と重なってしまっているかもしれませんが、正直、面白くありません(笑。よくESでこれまで頑張ったことを書いてくださいという欄がありますが、そういうことを書いてほしいわけではないからです。どうせやるならもっと徹底的にやってほしい(こちらも、本質直観の本を読んでいただければ何か参考になったかもしれません)ですし、このレポート作成をこそ、一番頑張っていることを文章を通して示して欲しいところです。

そういえば、お一人の方は手書きのチャートを写真で撮って添付してくれました。単にワードで作図することに慣れていなかったからかもしれません。けれども、示し方はさまざまです。そうした表現の方法が利用できるということ自体が、僕自身は大事だろうと思っています。バイトで苦労していろいろ学んだと言われるよりも、その苦労の結果身につけた何かを、具体的に、ここに示せるかどうか、そういう機智や機転があるかどうかということです。それがここで示すことのできない何かであるのならば、それは今回の記述にとって不要な何かだったということになります。

と蛇足ながらもう一つついでに付け加えておきますと、バイトやサークル・部活動での経験は、基礎ポイントはゼロかマイナスから始まることになります。もちろん、バイトやサークル・部活動自体が駄目だということではありません。上に書いた通り、その経験がこの記述に生かされていることを、今ここで示していただく必要があるということです。その点では、授業で学んだ知識を記述した方が、多分やりやすいのだろうと思うのですが、そういう記述をされる方がほとんどいないというのは、正直不思議なところでもあります。バイトや部活でレポートを書かされることはそうそうないと思いますが(ようするに、多分レポートに適していない)、授業ではきっとレポートを書かされるでしょう。

さて、なんにせよ、一つ目の方向性は狭き道です。むしろ期待されたのは、もう一つの方向でした。すなわち、雑誌全体を読みながら、より包括的な位置づけを考えていく方法です。こちらは、一冊読み込むことになりますので、当然難易度は上がりますし、時間もかかります。今回のテーマを頑張った感(How hard?)は当然増します。

直接的には、その上で、各論稿に共通するテーマ(ようするに内部観測)を見いだせるかどうかが焦点になります。お一人の方は、哲学的な論稿とアントレの論稿に共通点を見いだしていました。よく読み込んだと思います。ビューティフル・マインドではないですが、そういう力が試されていることになると言えるかもしれません。

そういえば、一人の方はワンピースの事例を紹介しながら議論を展開していましたが、これは非常に惜しいと思いました。というのも、内部観測というテーマこそが、主人公たちが探すワンピースそのものであるといってはもらえなかったからです。ルフィがアントレ的であるというのは、ちょっと平凡です。むしろ、僕たちも(いや、僕だけかも)、それからルフィにしても、内部観測やワンピースなるものが何であるのかが、ほとんど明らかにされていないという点が重要です。それでも、僕たちはそれを求めて記述している。この徒労とワンピースのテーマを重ねていただければ、おぉとなったと思うのですが、まあそれはそれとして。ただれこれもヒントがまったくないわけではなく、あとがきでそんなことを少し書いています。行ったり来たりして迷っている中で、当初の答えと違いそうだけどこれでいいのかもしれないと思える瞬間がある。そういうことを考えてもらえれば良いなと思った次第でした。

雑誌全体を読めれば、後はいろいろと発展が可能です。この雑誌に限らず、他の本を読んでもいいでしょうし、内部観測そのものを読んでみてもいいわけです。ネットの時代ですから、検索すれば一瞬で情報は集まります。これらを参照できるかどうか、こういう作業ができるかどうかが問われているわけです。残念ながら、今回のレポートで内部観測という言葉を使った方は一人だけでしたし、その意味を遡った方はいませんでした。今の方々がとりあえずまずはネットで検索する世代だと思うのですが、ちょっと意外でもありました。wikiによれば内部観測とは、、、のような記述は一切なかったです。そうやって指導されているのですかね。。。

僕のホームページを調べていただいた方、それからE!の第一号を読んだであろう方が一人ずついました。ホームページの方は、後付けについての考察が紹介されていました。こちらも非常に惜しいと思ったのですが、僕自身は後づけを基本的に容認できると考えています。そのために、逆向き因果の論理まであれこれ書いています。それ自体が成功しているとはとても言えませんが(笑、これらもその気になればすぐに調べられるはずです。一方のE!の第一号では、僕は「天才」について書いています。今回の課題の記事だけ読むと、ジョブズ天才!すごい!となってしまうでしょう。しかしこれも、もし第一号を読んでいたのならば、そういうことに興味があるわけではないことがわかると思います。第二号の隣に第一号もダウンロードできるようになっているのですから、なぜこれを参照しなかったのか、あるいは参照したとしても、応用できなかったのか、そういうことが評価の対象でありました。

いずれにせよ、興味深いレポートをたくさんいただきました。お忙しい中ありがとうございました。上のような意識のもとで評価してみました。事前に評価軸を教えてくれたら、もっとうまく書けたという方もいるかもしれません。しかし、今回のレポートで知りたかったのは、自由度が与えられたときにどういうことを書くのかということであり、その中で何人かの方は、実際にこの評価軸に沿う形で作文できているということが重要であろうと思います。このことは、おそらく評価軸を先に示していても、結果は変わらない(今回うまく書けた方は、単にもっとうまく書けるであろう)ということにもなりそうです。

もちろん、これらは別に普遍的な何かではなく、個人的な思考のパターンです。優秀かどうかということではなく、単に同じような考え方をできそうな方を選んだということかもしれません。これで実際にゼミがうまくいくのかどうか、来年度楽しみにしています。


2014年12月14日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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