市場ベースの資源論(備忘録)

企業にとって重要な資源は、例えば日常的にヒト・モノ・カネ、それから近年では情報だと言われる。特に情報が重要視されるようにつれ、目に見えない無形財が注目されるようになった。知識や組織文化、さらにはブランドイメージのようなものも含まれることになる。有形資源と無形資源の組み合わせを資源と呼ぶことができるだろう。ちなみに、この手の議論は理論的には資源ベース理論(RBV,RBT)として知られている。この場合には、資源は、tangible and intangibleの双方を含み、physical, financial, human, and organizationalからなる。情報が組織性になっている。

これに対して、資源の位置する場所を強調することもできる。資源ベース理論に対し、マーケティング論では市場ベースの資源論が提示される。すなわち、組織に保有される資源に対し、市場、または市場と組織のインターフェイスに蓄積される資源が存在するというわけである。

具体的には、例えば先のブランドイメージが該当する。ブランドイメージは、組織が有するわけではなく、顧客が有しているイメージのことだからである。あるいは、有形財としても、ヒトはただ従業員のことを指すだけではなく、顧客も指すと考えることができる。

市場ベースの資源は、組織に保有される資源とは異なる性格を有している。第一に、それは組織の自由とはならない。第二に、それは市場の側で大きくもなれば小さくもなる。変容も生じる。そして第三に、以上の性格を持ちつつ、その資源としての重要性は高く、組織にとって、市場ベースの資源への対応は業績を左右する。

組織論においても、市場ベースの資源についての考察は、資源依存論などに顕著にみることができる。組織が外部資源にどのように依存しているのかを捉えることは、外部と内部のダイナミクスを捉えることにもつながる。また、イノベーターズジレンマが資源依存論の文脈で語られる時、それは典型的に、市場資源としての顧客が内部組織やイノベーションに影響を及ぼしていることがわかる。

なお、資源の他の分類軸として、その価値について、客観的なものか相対的なものかという区分もありうる。これらは先のイノベーターズジレンマが示すように、どちらの資源もプラスにもなればマイナスにもなる、その可能性は様々な環境に依存するということだと考えられる。

関連文献:

石井淳蔵・栗木契・嶋口充輝・余田拓郎(2017)『ゼミナールマーケティング入門 第2版』日本経済新聞社。

大竹光寿(2015)「マーケティング研究における資源ベースの戦略論 ―市場ベースの資源と不均衡ダイナミズム―」『明治学院大学経済研究』、149:47-63。


2020年10月16日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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