芸人の世界と研究者の世界

芸人の世界と研究者の世界はよく似ているーー昔から繰り返し聞かされてきた横山仮説であります。先日、学部長って偉いんですかという話になり、どうでしょうね、大変な仕事だと思いますなどと適当に答えた時にふと思い出しました。特に大学の教員の場合、研究、教育、それから学務という大きく3つの仕事があります。最近はこれにもう一つ、広報・社会貢献という仕事も入ってきているかもしれません。学部長というのは学務の重要な仕事です。

しかし研究者の世界が芸人の世界とどう似ているのか。特にわれわれ経営学分野を想定すれば、大体こんな感じの話だったと思います。まず、研究者の世界も芸人の世界も、徒弟制の世界であり、誰が師匠で誰が弟子なのか、誰が兄弟子で誰が弟弟子なのかが話題となります。この関係に年齢は関係なく、大学院に入った年次がすべてとなります。会社などで働いてから大学院に入ったという場合、もちろんそのキャリアは生きますが、年次という点ではストレートで大学院に入った方が兄弟子となるということは普通です。芸人の世界も、テレビで見る限りは、そのようです。徒弟制については、養成所などの広まりで昔ほどではないのかもしれません。この傾向は大学も同様だと思います。徐々に個々の教員レベルというよりは、大学院レベルぐらい、場合によっては学会レベルでの養成が行われるようになっています。年次はそのままです。これは日本的だと思われるかもしれません。確かに、日本にいる限り、海外の関係を知ることは困難があります。しかし、あって話をすれば、似たような話を聞くことになります。あの有名な人はあの有名な人の生徒だったんだ、的な感じです。

例外もありますが、縦のつながりは総じて強く、ついで、年次のつながりが強い傾向が見られます。ちなみに、年次のつながりは徒弟制に横串をさしており、いわゆる同期とみなされる範囲は広範に渡ります。これは、学会などにデビューし、報告し、論文を書き、教員になっていく過程を一緒に経験するからであり、ある種の連帯感が生まれます。大学までと異なるのは、この横の繋がりが得られる年次は1年ごとに区切られておらず、数年ぐらいの長さがあります。これは、先の一連の過程が、必ずしも年次ごとに決められているわけではないということに由来しそうです。おそらく、この感覚もまた芸人の世界に近いものと考えられます。アメトークなどの同期芸人を見ていると、養成所であればまさに一年単位の明確な区切りですが、もう少し広く、各社を横断するような横串としての年次や同期もあり、一緒に寄席や営業、さらにその後の番組を経験することが意味を持っているのではと思います。

それから両者が似ていると思われるのは、最初の話に戻って仕事内容であり、その変化です。以前、ハライチが話していたり、最近歌っていたりしたようですが、芸人の方は、最初はネタを作って賞レースに勝つことが求められます。研究者の方は、最初は論文を書いて学会で報告してジャーナル に載せることが求められます。これらはそれぞれ芸人や研究者の本分であり、芸人は良い漫才やコントを、研究者は良い研究や論文をということになろうかと思います。最初の仕事です。ところが興味深いことに、これがうまくいくと、どちらもそれ以外の仕事を求められることになります。芸人であれば、漫才やコントではなく、バラエティ番組に出て体を張ったり、上手いトークをしなくてはいけません。もちろんそれぞれに関係はありますが、以前の仕事とはちょっと異なるものでもあります。研究者もまた、無事に就職できた場合には、研究はいいから授業をよろしくということになります。それこそうまいトークをしなければなりません。そしてさらに芸人の場合、いつまでも雛壇に座っているだけではいけません。ダウンタウンやナインティナインのように、司会者となったり冠番組をもって運営に参加する必要がでてきます。研究者でいう学務や、あるいは学部長といった役職は、こうした司会者の役回りのようでもあります。ただこういうと、やっぱり偉いのかなということにもなるわけですが、おそらくここは芸人の世界と同様に、とはいえやっぱり基本は漫才やコント、つまりは研究といった感覚も残るわけです。研究では、それこそ最初に研究者を目指した時から一緒にあるつながりもあります。

あくまで横山仮説を紹介しただけですので、例外や違っていることもたくさんあろうかと思います。


2023年03月31日 | Posted in エッセイ | タグ: Comments Closed 

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