論文は主張しなくてはならない

まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(阿部幸大、光文社、2024)を読んで感化されて、アーギュメント大事という今日この頃です。答えが大事です。

どうやったら論文が上手く書けるかなといつも思っていて、アーギュメントを設定してみようというわけです。ただこれは思っている以上に難しく(多分正確には、中高生ぐらいだとこれがとても得意で、彼らに対しては、だから問い直しが大事なのだと言ってもよく、結局良いアーギュメントを作るためには良い問いが重要になるわけですが)、これができたら論文は完成です。

いろいろ試行錯誤しているところで、三つ(あるいは四つ)の文体を考える手がありそうなことに気づきました。①「本論文は・・・を主張する。」これがアーギュメントタイプ。本だともっと特定されてますが、ひとまず。②「本論文は・・・を明らかにする。」これは中間タイプ。③「本論文は・・・を考察する。」か、「本論文は・・・を議論する。」これはテーマタイプ。イメージとして、①にあう文章は、②にも③にもはまりそう。逆に、②や③にあう文章は、①にはまるとは限らない。当然、論文のタイプとしては③が書きやすく、①は難しい。

個人的に、アーギュメントタイプは仮説検証型の実証論文がはまると思っているので、それを例に考えてみます。例えば次のような仮説。「アイドル依存は借金回避傾向を高める。」これを①にはめると、「本論文は、アイドル依存は借金回避傾向を高めることを主張する。」違和感はない。②の場合は、「本論文は、アイドル依存は借金回避傾向を高めることを明らかにする。」これもいける。③だと、「本論文は、アイドル依存は借金回避傾向を高めることを考察する。」これでもよい。

次に、アーギュメントタイプは仮説構築、仮説発見型のような事例研究などだと難しいと思うので、それを例にしてみます。例えば、③から始めて、「本論文は、企業アカウントのマネジメントを考察する。」これはいける。②にすると、「本論文は、企業アカウントのマネジメントを明らかにする。」これも大丈夫かな。ただ①にすると、「本論文は、企業アカウントのマネジメントを主張する。」これはちょっとおかしい感じがします。

もっと極端なところで、テーマのようなものだと、②もおかしい気がします。例えば、「本論文は、ソーシャルマーケティングを明らかにする。」③ならばいける気もします。「本論文は、ソーシャルマーケティングを考察する。」②と③は結構近いかもしれませんが、少なくとも①にははまる文章とはまらない文章がありそうです。

ここから直してみます。「本論文は、ソーシャルマーケティングを明らかにする。」は少し変な気がしますが、「本論文は、ソーシャルマーケティングの特徴を明らかにする。」にすれば大丈夫そうです。ここからさらに、「本論文は、ソーシャルマーケティングの特徴を主張する。」にすると、まあ悪くはないですが、ちょっと変ではあります。「本論文は、ソーシャルメディアの双方向性という特徴を主張する。」「本論文は、ソーシャルメディアは双方向性という特徴を持つことを主張する。」ここまですれば大丈夫でしょうか。

仮説構築や仮説発見を目指す論文の場合、その仮説が見つかるのは最後になるので、最初の議論設定は、どうしても「・・・を明らかにする」「・・・を考察する」という形になりがちです。しかし、考える順番としてはそれでいいとしても、論文にする場合には、あるいは論文になるレベルに達したという場合には、発見された仮説を主張として最初に設定し直すことができるということだと思います。

「「本研究は・・・を主張する」という一文を作ってください。」論文を書くための作業は、この問いの繰り返しでいけるのでは、、、という次第です。「この論文の主張は何ですか?」とか聞くと、明らかにすることや考察することがいろいろ出てきて混乱しそうですので、とにかくこの一文を作ってもらう。それを議論し、問い直す感じだとどうでしょう。

冒頭に書いたように、中高生ぐらいは、あるいは小学生でも、答えを出すのが得意だと思います。例えば、どうすれば環境配慮型製品が売れるようになるのか?安くすれば良い。広告すれば良い。これはアーギュメントになりそうです。「本研究は、環境配慮型製品が売れるようになるためには、安くすれば良いと主張する。」しかし、このアーギュメントはあまり評価されそうにはありません。安くすればいいのはわかっている。それができないから、あるいはそう簡単にはいかないから困っているのだというわけです。ここで求められているのは、もっと深い考察であり、問い直しであり、問いの設定です。

おそらく、私たちの多くは、一つ目の主張が安直であることを知り、問い直しを始めています。だから問いを鍛えることが大事です。しかし、問い直したままでは論文としては完成しません。問い直して答えを最後に書くのではなく、最後に書いた答えを最初の主張として置き直す。この作業が大事かな、、というのが今のところの理解です。こう書くと、イントロは最後に書くとか、最初に結論をかけ的な通常業務に過ぎないような気もしますが、それはそれで大事です。言い方を変えたり見方を変えることで進むこともあります。


2025年01月08日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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