産業恐慌としてのコロナ?


いらすとや。

今年はオリンピックもあるし、はじまりは何となく明るい感じだった気がするのですが、まさかの展開で世界的に大混乱の今日この頃です。スケジュールも何もあったものではなく、このところはかつての東日本大震災を思い起こしていました。似ていた、ような気もします。

コロナウイルスが社会に与えている影響は、多分震災のそれに近いでしょう。同様に、経済に与える影響も似ていると思います。しかも、今回はよりグローバルな規模で問題が生じていますので、それぞれの影響はより大きいであろうと言えます。実際、すでに、社会的にも、経済的にも、その影響は甚大です。

特に経済に与える影響を考えた場合には、そのグローバルな規模を考えると、震災よりも2008年のリーマンショックや、あるいはもっと遡り、1929年の世界恐慌に目を向けた方がいいかもしれません。そうした議論も既にいろいろあるようです。その際に思い出すのは、世界恐慌とリーマンショックの違いであり、今回の場合は、世界恐慌の方にその仕組みが似ているようにみえるということです。

以前書評も書かせていただいた『変貌する資本主義と現代社会――貨幣・神・情報』では、リーマンショックと世界恐慌が比較されています(「今日的なシステム論の可能性を求めて」有斐閣ウェブページ)。リーマンショックは金融恐慌であり、世界恐慌は産業恐慌であったということが一つの見立てです。もちろん両者は相互に影響しあいますので、実際には複合型だろうと思いますが、仕組みとしては少し違います。後者の産業恐慌は、需要と供給のギャップが顕在化することで引き起こされます。ようするに作りすぎです。一方で前者の金融恐慌は、需要と供給を支えている貨幣そのものへの不安が生じることで顕在化します。みんなが価値があると思うから価値があるパターンです。

今回の場合、コロナウイルスの流行により、人々は消費を抑制し、企業もまた生産を抑制する方向に向かっています。両方が同時進行で小さくなれば経済そのものが小さくなるだけですが、当然のことながら時間的なギャップが生じますので、過剰生産が生じることになります(部分的に過剰消費も生じていますが)。ギャップが小さいうちは問題ありませんが、一定の範囲を超えればもはや修復は困難となり、経済の縮小が一気に進行します。恐慌の始まりです。

今回のような産業恐慌は、古典的とも言えますが一度起こると物理的な破壊力を持つ分厄介です。かつては戦争にまで至ってしまったことを考えれば、大きな対応が必要になります。政府による支援を考えるのが、まずは順当でしょう。

ところで一方で、世界恐慌や世界大戦を前後して、産業恐慌を防ぐために発展してきた装置の一つがマーケティングでした。より正確には、市場や市場交換と呼ばれるものが大きな装置としてあり、マーケティングはその装置を動かすピースであったり、アート(術)だったといえます。マーケティングは、需要に働きかけ、需要を良くも悪くも創造します。マーケティングというと、ちまちまとしたアート(技)のようにも見えますが、大文字としてのマーケティングを考えた場合には、経済においてとても重要な役割を果たしています(「大学でマーケティングを学ぶ意義」首都大学東京 高校生向け特別講座)。

その意味では、マーケティングの重要性がいつになく増しているといえるかもしれませんし、他人事のようにみれば、今回を機にマーケティングは新しい術を自らに見出していく可能性があります。おそらくそれは企業のマーケティングというよりは、今日的には、ニューディールのような、しかし政府主導で直接需要を作る方法ではなく、社会的な活動と結びついたものであるような気もします。例えば、すでに萌芽的であったものとしては応援消費のようなものが該当するでしょうか。人が旅行に行かなくなれば、当然旅行先のサービスは潰れてしまいます。サービスや生産を守るという意味が、消費には含まれているわけです。

このところのキーワードだった共創のようなものも、似たようなものかもしれません。供給と需要の垣根を曖昧にしてしまうということは、やはり良いも悪いも含み込みますが、単なる流行りの一手法ではなく、歴史的な意味を持つものであり、それが今回を機にはっきりしてくるのかも、などと感じます。

いずれにせよ、金融恐慌では金利の操作などが一定の効果を持ちますが、産業恐慌だとその効果は小さくなると思います。むしろ、それこそ旧来的ですが減税をするとか、一時金を給付するとか、要するにマーケティングが得意とするような需要の創造が必要です。広告するとか、販路を整備し直すとか、価格を調整するとか、そういうこともあるのかもしれません。社会的な問題とカップリングしているので難しそうですが、今こそオリンピックで盛り上げる、みたいなことも、ベタにはありえます(むしろ延期か中止になりそうですが。。)。

追記(4.26)

応援消費系はいろいろとでてきてますね。食べ物系が多そうですが、食レポ系のテレビは過去放映の編集と合わせて通販などと組み合わせてきています。この流れがどのくらい広がるかは興味あります。

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広がる「食べて応援」 エール飯、給食通販人気 「コロナに負けぬ」企画次々
時事通信社 4/25(土) 13:35配信
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2020年03月13日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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