第12章デジタル経済下での流通変化と小売マーケティング

本章では、モバイルアプリに焦点を当て、消費者の購買に大きな影響を与えている流通モバイルアプリのあり方について、消費者の購買意思決定プロセスに着目して考察している。

1デジタル化による消費環境の変化

巨大流通プラットフォーマーの出現

流通機能を担う流通業者のビジネスモデルのは多様化しており、取引形態は、製造業者から消費者へと垂直的な「パイプライン型」と複数の顧客グループを仲介し、手数料収入を得て成り立つ「プラットフォーム型」が存在する。

流通ビジネスモデルの類型

オフライン/オンライン×パイプライン/プラットフォームの4類型に加え、オムニチャネル・モデル(実店舗×EC)やハイブリッド・モデルが存在する。これらはデジタル技術により常に変容する。

2デジタル化による小売マーケティングの変化

4つの「真実の瞬間」 

購買意思決定プロセスのステップとして、FMOT(店舗で見定め)、SMOT (使用経験)、ZMOT  (事前の情報の探索や収集)、TMOT (使用後の共有や発信)がある。そして、プロセスの順序は一方向性や単線系ではなく、双方向性と個別性を持つ。

モバイルマーケティング

インタラクティブな性質かつ、モバイル広告や販売促進などの関係性構築活動を含むものであり、特に小売業のマーケターが重要性を強く認識する。そして、来店を待たずに低コストかつ特定な対象の購買意思決定プロセスに介入することが可能となる。

モバイルアプリと購買意思決定プロセス

モバイルアプリは、モバイルマーケティングの前提であり、オンラインとオフラインの垣根を壊しつつ、境界領域を拡大する。具体的に、買い物リストの構築や接客不要な支払方法の提供などである。

モバイルアプリと反応モード

反応モードは態度、行動、認知で構成され、それぞれの反応モードで、消費者がとる行動、その行動による態度、それに伴い活性化する認知的な情報処理を支援する様々機能が期待されている。

情報のハブとしてのモバイルアプリ

上の機能を遂行するアプリが提供する情報の識別については、小売業者に閉じた世界/個人に閉じた世界/マーケットに開かれた世界/社会に開かれた世界という4つの世界から提供される情報のバランスの上で成り立つ。

4 競争類型

『機能の統合性』と『製品カテゴリーの統合性』を軸に、両方高い「リーダー型モバイルアプリ』両方低い『市場・機能特化型モバイルアプリ』がある。

まとめ

①モバイルアプリにおいて、買物のスマートさと楽しさの最大化のために軸の両方を設計すること

②リーダー型以外の展開は、①に加え、特定機能を絞り込み、適切性を高めたアプリに調整すること

③小売や製造業者は、競争類型を考慮して、リーダー型モバイルアプリに依拠した展開をするか、市場と機能に特化した価値を有するアプリをつくり、リーダーとの併用を狙うこと

以上の3点が重要である。

実際に具体例を自分なりに考える。アパレルに関して、「ZOZOTOWN」はリーダー型モバイルアプリに部類し、「WEAR」は、市場・機能特化型モバイルアプリであると考えられる。「WEAR」は、インフルエンサーやショップ店員が実際に商品を着こなすコーデ投稿アプリであり、基本的に「見る、参考にする」部分に特化している。重要なのは、これらが独立しているのではなく、「リーダー型への依拠と特化型の併用」という本章の結論(まとめ③)を体現している点である。具体的は、WEARでインスピレーションを得て、そのままZOZOTOWNで購入・決済するという流れである。このシームレスな相互作用こそが、現代の消費者が求める「スマートかつ楽しい買物」の正体であると考える。

私たちは何気なく様々なモバイルアプリを使い分けているが、この背景には様々な設計が行われている事実に驚いた。そしてこの何気ない使い分けの分析やその上での設計が重要であると感じた。特にリーダー型を目指したり、機能を増やすだけでなく、特定の価値や市場に振り切った「特化型」としてリーダー型と共生する道筋があるという視点は、今後のモバイル戦略を考える上で重要である。

第2章デジタル経済化と消費の変化

(3年・金岡)本章は、デジタル経済化の進展によって私たちの消費行動がどのように変化しているのかを、「対象」「目的」「様式」「場」という四つの視点から整理した内容である。消費というと単に商品を買う行為として捉えられがちだが、本章ではより広い社会的・文化的行動として位置づけ、その構造変化を明らかにしている点に特徴がある。

本章では大きく四つの変化が紹介されている。①消費における「対象」の変化、②消費における「目的」の変化、③消費における「様式」の変化、④消費における「場」の変化である。これらはいずれもデジタル技術の発展と深く結びついており、互いに影響しながら現代の消費行動を再編している。

①消費における「対象」の変化では、有形財と無形財の境界が揺らいでいることが論じられる。従来はCDや本、DVDなど手に取れる物が消費の中心であったが、現在では音楽配信、動画配信、電子書籍、アプリといったデジタル財が主要な対象となっている。その一方で、旅行や食事、イベント参加など本来は形のない経験も、SNSへの投稿や写真・動画の保存によって可視化され、擬似的に有形化されるようになった。こうしてモノとコトの境界が曖昧になり、消費対象そのものが変容している。

②①は消費の「目的」にも変化をもたらした。消費における「目的」の変化では、まず「所有から利用・経験への重点シフト」が起きている。かつては製品を所有すること自体に価値があり、それが豊かさや満足感の象徴でもあった。しかし、サブスクリプション型サービスの普及により、消費者は所有しなくても必要な機能やコンテンツを利用できるようになった。その結果、物を持つことよりも、どのような経験をしたかが重視されるようになっている。さらに、「デジタル空間でのアイデンティティ構築の重視」も重要な目的となっている。SNS上では「自己表現と承認欲求」が密接に結びついており、投稿へのいいねなどの反応や評価があることにより、デジタル空間での自己表現と承認獲得は重要な消費の目的となっている。また、オンラインコミュニティや推し活動などを通じて「他者とのつながり」を求める動きも強まっている。消費は他者とのつながりを築く手段にもなっている。

③「様式」の変化として、アクセス・ベース消費と一時的所有に注目している。アクセス・ベース消費とは、製品やサービスを所有せず、必要な時だけ利用する形態であり、動画配信サービスやカーシェアなどが例として挙げられる。一時的所有とは、商品を購入して一定期間利用した後、フリマアプリなどで売却することを前提とした消費である。これらはいずれも永続的な所有を前提とせず、より柔軟で効率的な消費行動として広がっている。

④「場」の変化では、消費が行われる空間そのものが現実空間からデジタル空間へ拡張していることが説明される。1990年代のECサイトによる選択・購買の場のデジタル化にはじまり、2000年代以降はSNSによるコミュニケーションの場が形成された。さらに2010年代以降は、ゲーム空間やメタバースなど生活全般を含む場へと広がりつつある。今日では、商品を探し、比較し、購入し、共有し、評価するまでの一連の行動が同じデジタル空間で完結するようになっている。

本章はデジタル経済化による消費変化が単なる利便性向上にとどまらず、人々の価値観やアイデンティティ、社会関係そのものを変えていることを示している。

本章は、自分が知らずのうちに、ごく身近な消費行動を通して社会が大きく変化していることに驚いた。消費に注目することで、次世代の消費行動がどう変化していくのか考察したりするのも楽しいと考えた。

第7章 選ばない消費 (酒井)

デジタル技術の進展によりeコマースが登場し、消費者は豊富で多様な選択肢へのアクセスができるようになったが、その一方で情報過負荷が増大し、膨大な数の選択肢に日々直面するというストレスが生まれた。このストレスを削減するために、意思決定の一部をレコメンデーション・システムに委ねる選択方略は「選ばない消費」と呼ばれている。本章ではこの「選ばない消費」について「ストレス削減型」、「ランダム性志向型」、「予測型AI」から「生成AI」というAI技術の発展段階、の3つに着目して検討する。

1選ばない消費とその拡大

デジタル化によって、適切な選択肢に出会える可能性は高まり選択者の満足度も向上するが、膨大すぎる情報は正確に処理することができず、かえって意思決定が難しくなる。この二面性を「選択のパラドックス」という。「情報過負荷」に直面した消費者は、従来、ヒューリスティクスを用いてきたが、それは情報過負荷の根本的解決にはならない。その結果として「選ばない消費」が台頭し、「ストレス削減型」の方略として機能として急速に広がりつつある。

高精度化したレコメンデーションは大きく拡大しているが、常に最適な選択肢が提示されることで類似した製品を選び続けることになり、消費者は飽きや好奇心を感じ新しい商品を試したくなる。このような行動はバラエティ・シーキングと呼ばれる。新奇性や驚きを得るために、消費者は不確実性を取り入れる「ランダム性志向型」の選択方略を模索するようになった。このランダム性志向型は、消費者に予期せぬ出会いや驚きを提供しつつ、潜在的な需要も満たす、「演出されたランダム性」をもっている。

レコメンデーション・システムは生成型AIの登場によって大きく変化してきている。生成型AIを活用する形で、消費者の属性や行動歴データに基づき、サービスや提案を各人に会う形で調整する方法は「パーソナライゼーション」と呼ばれている。生成型AIは消費者の生活全般を継続的にサポートし、購買行動全体を引き継ぐ消費者の代理人となる可能性も生まれている。

2情報過負荷への対応とストレス削減型方略

ここでは、「ストレス削減型」を「失敗回避型」と「最適解採用型」という2つの下位類型に分けて検討する。「失敗回避型」方略は、不必要なものや目的から逸脱したものを避ける「採用エラーの最小化」が優先される、ネガティブな結果の回避を目標としたものである。これは望まない結果を徹底的に排除することで、消費者の明示的な制約条件を保証するという特徴がある。「最適解採用型」方略は、より良いものを見逃したり気にいる可能性のあるものを取りこぼさないような「排除エラーの最小化」が優先される、よりポジティブな結果の採用を目標としたものである、これは、潜在価値を感じる選択肢と新たなであいをAIによる潜在的な思考推測によって演出するという特徴がある。

3ランダム性志向が生み出す新たな選択方略

ランダム性志向型方略には「セレンディピティ消費」、「ミステリアス消費」、「ネタ消費」の3類型がある。セレンディピティ消費は選択の結果を楽しむものであり、「制御されたランダム性」によって選択後の評価を重視しつつ新たな出会いを楽しむという特徴がある。ミステリアス消費は選択のプロセスを楽しむものであり、選択の過程における不確実性や期待感を提供することで驚きと意外性を楽しむという特徴がある。ネタ消費は結果の共有を楽しむものであり、「映え」ま「話題性」とあったトーカビリティのあるものをランダムに提供し、SNSを通じて結果の共有を楽しむという特徴がある。

4AI技術の発展と「選ばない消費」の新展開

2010年代の「予測型AI」を基盤としたレコメンデーション技術は、消費者の情報処理を代行して最適な選択肢を提案し、情報過負荷によるストレスを削減することで、「ストレス削減型」方略の拡大を促進した。2020年代に入り「生成型AI」が登場し、レコメンデーションのみではなくマーケティングにおけるパーソナライゼーションが劇的に強化された。その革新的な特徴は、消費者の心理的なプロフィールに合わせて説得力のあるメッセージや広告コンテンツを生成することができるようになっていることである。従来の予測型AIが提供していた画一的な提案から、消費者一人ひとりの個人的な状況や嗜好を配慮したコンテンツ提供が可能になったのである。また、AIシステムは人間同士の相互作用に近い自然な体験を提供する可能性をもちつつあり、消費者はAIとの間ひ感情的なつながりや信頼関係を築くことができるようになっている。このようなAIエージェント化は、将来的には、レコメンデーションは消費者の生活全般にわたる継続的なサポートを提供する存在へと進化していく可能性を秘めている。

5レコメンデーション技術の進化と「選ばない消費」の今後

本章で取り上げた「選ばない消費」とその拡大は、消費者行動のパラダイムが「選択中心」から「委任・協働中心」へと移行する可能性を示唆している。つまり、消費者は何を選ぶか決定することから、AIエージェントとの関係性をどう構築するか、何をどの程度委ねるか、そして委ねた結果をどのように評価・調整するかへと、変容していく可能性があるということである。このように「選ばない消費」は今後、単なる負荷の軽減や新奇性の追求といった問題を超えて、AIエージェントとの協働による新たな消費体験の共創などの問題へと発展していく。

第4章 一時的所有 (3年 松澤)

この文章は、近年のデジタルプラットフォームの発展、とりわけフリマアプリの普及を背景として登場した「一時的所有」という新しい消費行動の概念について論じている。従来の消費においては、商品は購入後に長期間所有し続けることが前提とされ、その価値は主に使用価値に見出されてきた。しかし現在では、消費者は商品を一定期間使用した後に中古市場で売却することを前提(一時的所有)として購入するようになり、所有のあり方そのものが変化している。

 この一時的所有の大きな特徴は、消費者が商品を単なる消費対象としてではなく、「将来売却可能な資産」として認識している点にある。すなわち、購入時には使用価値に加えて再販時の価格、いわゆるリセールバリューを重視する傾向が強まっている。このような視点の変化により、消費者はより合理的かつ計算的に商品選択を行うようになり、結果として所有期間の短期化が進んでいる。形式上は「所有」であっても、実態としては「一時的な利用」に近い消費行動が広がっているのである。

 このような変化の背景には、フリマアプリやオンラインマーケットプレイスの発展による二次流通市場の拡大と価格の可視化がある。これにより消費者は購入時から売却を見据えた意思決定を行い、モノを流動的な資産として捉えるようになった。また、一時的所有はリキッド消費やアクセス・ベース消費と関連しつつも、「一度所有する」という点で独自性を持つ中間的な消費形態として位置づけられる。

 さらに、このような消費行動の変化は企業のマーケティング戦略にも影響を及ぼす。企業は商品の耐久性やブランド価値を維持するだけでなく、中古市場における価値まで意識した商品設計や戦略が求められるようになっている。

 この文章の優れている点は、現代の消費行動の変化を「所有」という観点から再定義し、新たな概念として整理している点にある。特に、一時的所有という考え方は、日常的にフリマアプリを利用する現代の消費者の実態を的確に捉えており、非常に説得力がある。また、既存の概念との比較を通じて、この新しい消費形態の位置づけを明確にしている点も評価できる。

 一方で、やや理論的な説明に偏っており、具体的な事例や実証的データがもう少し提示されていれば、さらに理解が深まると感じられる。また、すべての消費者がリセールを前提に行動しているわけではないため、その適用範囲についての議論も必要であると考えられる。

 それでも、この文章は現代の消費社会を理解する上で重要な視点を提供しており、特に若年層を中心とした新しい消費スタイルを考える上で有益である。今後のマーケティングや消費研究においても、この「一時的所有」という概念は重要な鍵となるだろうと思う。

第5章 心理的所有感(3年 木村)

本章は心理的所有感と現代の消費行動の関係について考察されている。

第一節では心理的所有感とは何か、第二節ではデジタル時代での消費の変化と心理的所有感の関係について、第三節ではソーシャルメディアと心理的所有感の関係について、第四節では心理的所有感の影響の良し悪しとマーケティング対応について述べられている。

はじめに、心理的所有感とは、個人が特定の対象やその一部を「自分のものだ」と感じる主観的な感覚を指す。従来の消費は、製品を実際に所有すること、すなわち物理的所有を前提としていた。しかし近年では、カーシェアリングのように「所有しない消費」が拡大しており、所有のあり方自体が変化している。
こうした変化の中で重要となるのが、消費者がモノやブランドに対してどのように心理的所有感や愛着を抱くのかという点である。

関連する概念として「製品関与」と「ブランド関連概念」がある。製品関与とは、特定の製品カテゴリーに対する知識や関心の程度を指す。一方でブランド関連概念は、ブランドとの関わりや結びつきの強さを表すもので、心理的所有感はそれらとは独立した概念であると言える。

また、心理的所有感は消費対象の性質によって異なる。一般に、物理的な財はデジタル財よりも心理的所有感が高まりやすく、それに伴い支払意思額も高くなる傾向がある。さらに、消費対象は「法的所有―法的アクセス」と「物質的―経験的」という二軸によって分類でき、これらの組み合わせによって心理的所有感の強さや特徴が変化する。

次に、ソーシャルメディアにおける心理的所有感について、SNSは、ユーザーがコンテンツや空間に対して強い心理的所有感を抱きやすく、消費行動にポジティブな影響を与える。一方で、その特性はネガティブな影響も生み出す。

第一に、広告回避行動である。従来は広告の「注意の侵略性」が問題とされていたが、現代ではSNS上の「空間の侵略性」がより強く意識されるようになっている。

第二に、パーソナライズ広告の問題がある。広告が個人に最適化されるほど、ユーザーはそれを自己の空間への侵入と感じやすくなる。特にバナー広告ではその否定的影響が強く表れるが、コンテンツに自然に溶け込むネイティブ広告では、その違和感がある程度緩和される。

第三に、ブランドコミュニティの影響である。SNS上での心理的関与が高まると、ブランドへのコミットメントやロイヤルティは向上する。しかし一方で、消費者同士の交流が逆効果となる場合もある。ユーザーがその場を「自分の場所」と認識することで、些細なテリトリー侵害にも過敏に反応してしまうためである。

第四に、投稿写真における人物の存在である。他者が写っている写真はエンゲージメントを高める一方で、購買意図を低下させる傾向がある。特に「自分だけの特別な体験」が重視される商品では、人物の存在感を抑えることが重要となる。

以上を踏まえると、心理的所有感は消費者と商品・ブランドを結びつける強力な要因であるが、その影響は必ずしも一方向ではなく、ポジティブ・ネガティブの両面を持つことがわかる。

読んだ感想としては、心理的所有感という概念を初めて知って今までなんとなく感じていた自分のもの、という感覚が言語化されておもしろかった。

消費者を商品と結びつけることはマーケティングに関してメリットばかりだと思っていたが、デメリットもあることを知り、その点をよく考慮することの必要性を感じた。

所有、に関して人間は自分の所有している物を過剰に評価し、また所有物に飽きやすい性質があるので断捨離が困難になる、という話を聞いたことがあって、デジタル上での所有ではその点物理的な制限がなしに所有できるという点で重要な視点であると感じた。

 

第10章 「持たない消費」のマーケティング、デジタル経済下の消費者行動:新たな消費の出現とマーケティング対応

第10章 「持たない消費」のマーケティング (3年 清水)

本章は、デジタル経済の進展に伴い拡大している「所有しない消費」について、サブスクリプション、シェアリング・サービス、そして具体事例としてのエアークローゼットを中心に論じている。従来の消費は商品を購入し所有することに価値が置かれていたが、近年ではサービスとして利用すること自体に価値が見出されるようになっている。本章はこのような消費行動の変化を背景に、企業のビジネスモデルやマーケティングの変化を明らかにしている。

まず、サブスクリプションについてである。サブスクリプションは、一定期間の利用権を提供するビジネスモデルであり、消費者は商品を所有するのではなく継続的に利用する。このモデルでは、企業は単発の販売ではなく長期的な顧客関係の構築を重視する必要がある。また、利用履歴や嗜好データの蓄積により、個々の顧客に最適化されたサービス提供が可能となる点も特徴である。一方で、こうしたデータは他サービスへの移行を難しくするスイッチングコストを生み出す要因ともなる。

次に、シェアリング・サービスについてである。シェアリング・サービスは、複数の利用者が資源を共有する仕組みであり、利用効率の向上やコスト削減といった利点を持つ。このようなサービスは、必要なときに必要な分だけ利用するという消費スタイルを可能にし、「所有から利用へ」という流れを加速させている。また、デジタルプラットフォームの発展により、利用者同士のマッチングが容易になり、サービスの利便性が高まっている点も重要である。

さらに、本章では具体例としてエアークローゼットが取り上げられている。このサービスは、利用者の好みや体型、過去の評価データをもとに最適な商品を提案するファッションレンタルサービスであり、単なる衣服の貸し出しにとどまらず、スタイリング提案を含めた体験価値を提供している点に特徴がある。利用者は自分で商品を選ぶだけでなく、プロのスタイリストやデータに基づいた提案を受けることができるため、新たなファッションとの出会いが生まれる仕組みとなっている。

また、利用者のフィードバックが蓄積されることで提案の精度が向上し、より個人に最適化されたサービスが提供される。このように、データの蓄積と活用がサービス価値の向上に直結している点は、デジタル経済下のマーケティングの特徴をよく表しているといえる。さらに、こうした仕組みは利用者の満足度を高めるだけでなく、他サービスへの移行を難しくする要因ともなり、結果として継続利用を促進する効果を持つ。

以上のように、サブスクリプション、シェアリング・サービス、エアークローゼットはいずれも「所有しない消費」を支える仕組みであり、継続利用やデータ活用を通じて企業と消費者の関係性を強化している点で共通している。

本章を読んで、自分自身の消費行動を振り返ると、動画配信サービスや音楽配信サービスを日常的に利用しており、「所有しない消費」が当たり前になっていると感じた。また、一度利用し始めると他サービスへ移行しにくいことから、スイッチングコストの影響も実感できる。一方で、利便性が高い反面、提示される選択肢に依存してしまう可能性もあると考えた。今後は利便性と多様性のバランスを意識した消費行動が求められると感じた。

第9章 つながる消費 (森)

第9章 つながる消費

(3年 森)

本章はネット上のコミュニティ、特にブランド・コミュニティに着目し、デジタル化の進展によって消費者と企業の関係がどのように変化してきたのかを整理している。これまで消費は比較的個人的で孤立した行為であったが、インターネットの普及により掲示板やSNS上で情報交換が行われるようになり、消費者同士が相互に影響を与え合うことができるように変化した。また企業にとっても、消費者同士のやり取りを直接観察できる環境が生まれ、「企業―消費者」だけでなく「消費者―消費者」という新たな関係性が重要になった。

こうした変化は段階的に進んできたとされている。

黎明期には、ブランドを中心に強い結びつきを持つコミュニティが形成され、ブランドに愛着を持つ積極的な消費者が主に活動していた。この時期、企業はコミュニティを主導する立場ではなく、イベントの実施やブランド体験の提供を通じて、消費者同士の交流を支援する役割を担っていた。また、こうした体験を通じてブランドへのロイヤルティが高まっていったと考えられる。

その後の混乱期には、ソーシャルメディアの普及やスマートフォンの登場により、消費者は常につながる環境に置かれるようになった。その結果、情報の拡散や炎上といったリスクが現れ、消費者の発信行動は慎重になった。このような状況に対応するため、企業は消費者の参加を促すマーケティング施策を展開し、公式アカウントによる双方向的なコミュニケーションなどを行うようになった。

さらに成熟期においては、コロナ禍によるデジタル化の加速もあり、消費者は複数のコミュニティに所属し、それぞれで異なる関係性を使い分けるようになった。その中で深く関わるコミュニティと、軽く関わるコミュニティが共存する状態となった。これに対し企業は、それぞれに対策を行い、資金援助や情報提供を通じて関与する「協力的参加」、企業への関与を自己表現に結びつける「自己呈示」、そして浅いつながりには情報収集や問題解決を目的とした「道具的なつながり」といった、多様な関係構築のあり方を提示している。

また、消費者が複数のアカウントを使い分けるなどする中で、企業は自発的に形成される「界隈」を見出し、それを支援することが重要であると指摘されている。

以上を踏まえると、本章はブランド・コミュニティを通じた企業と消費者の関係が、単なる感情的なつながりから、目的や関わり方に応じた多様な関係へと変化してきたことを示している。そして現代では、消費者の自己表現や効率的な情報収集といったメリットを提供するだけでなく、コミュニティの一員として消費者の声を理解する姿勢が求められると述べている。また、企業自身も、どのような消費者とどのような関係を築くのかを戦略的に選ぶ必要があるとされている。

8章 生み出す消費 -プロサンプション拡大の背景とインパクト-

かつて、経済学における「生産者」と「消費者」は明確に分断された存在だった。企業が製品を作り、消費者がそれを一方的に享受する。しかし、本書の第8章が描き出すのは、デジタル技術によってその境界線が完全に溶解し、双方が融合した「プロシューマー(生産消費者)」が主役となる新たな経済圏の姿である。

進化するプロサンプションの階層

プロサンプションを単なる一過性のトレンドとしてではなく、その発展段階を「5つの形態」として構造化した点にある。

プロサンプションの5形態

・消費者に報酬なし

セルフサービス

最も初歩的。企業の作業を代行するだけ。マニュアル作業

企業とのコラボ

消費者が企業の製品開発プログラムにおいて共創できる。

P2Pプロサンプション

営利のない参加者同士対等な形態。金銭報酬に依存しない。

・報酬あり

デジタル・プロサンプション

ユーザーらの間で投稿・編集・評価できる。それに伴う広告収入や投げ銭もある。

ブリコラージュ

二次創作。既出のコンテンツを素材として利用。著作権との兼ね合いが難しい。

初期の「セルフサービス」は、企業のコスト削減を消費者が肩代わりするだけの受動的なものだった。しかし、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の台頭を経て、現在の「デジタル・プロサンプション」へと至る過程で、消費者はもはや「手伝い」ではなく、自ら収益を生む「価値の源泉」へと変貌を遂げている。

特に注目すべきは、報酬の有無によって形態を分類している点だ。SNS投稿や投げ銭、広告収入といった経済的インセンティブが趣味的な創作活動を既存の経済システムへと接続し、プロサンプションを「生活の一部」から「持続可能な経済活動」へと昇華させている。

デジタルから物理世界への拡張

本章の後半では、生成AIや3Dプリンターといった先端技術が、プロサンプションの限界をさらに押し広げている事実が指摘される。 「バイブ・コーディング」に代表されるように、プログラミングという専門技能さえも自然言語によって民主化され、誰しもがクリエイターになれる時代が到来した。さらに、デジタル空間に閉じていた生産活動が、3Dプリンターを通じて物理的な「モノ」の生産にまで波及している点は極めて示唆に富む。これにより、消費者はもはや市場から選ぶ存在ではなく、自らのニーズを自らで完結させる「完結型生産者」への道を歩み始めている。

企業の生存戦略としての「ゲーミフィケーション」

また、企業側の視点の変化についても鋭い考察がなされている。製品を売って終わりのモデルから、ユーザーが生み出す価値をいかに収益化するかというモデルへの転換だ。 ここでキーワードとなるのが「ゲーミフィケーション」である。Yahoo!やGoogleマップ、クックパッドの事例にあるように、ユーザーに継続的なデータ生成や評価を促すための仕掛けが、企業の競争力を左右する。ユーザーの「活発さ」をいかに引き出すかが、現代の企業経営における最重要課題であるという指摘は、マーケティングに携わる者にとって避けて通れない視点だろう。

結び

第8章は、プロサンプションがもたらすインパクトを、個人の自己実現と企業の収益構造の両面から鮮やかに照らし出している。 消費者が生産の楽しさを享受し、企業がその熱量を糧に成長する。この「境界線の融解」は、単なる効率化の手段ではなく、人間と経済の関わり方を根本から再定義するパラダイムシフトである。デジタル経済の荒波の中で、我々がどのように「価値」を定義し直すべきか。本書はその羅針盤となる一冊である。

本書が示すプロサンプションの進化は、AIや技術刷新による専門分野の大衆化が「ビジネスチャンスの偏在化」を招き、誰もが低ハードルで市場に参入できる「全人類プロシューマー時代」の到来を予感させますが、一方で専門職の垣根がなくなって生産主体が埋没することで、供給過多による品質の劣化や、既存の法的・倫理的制度が追いつかないことによる摩擦など、自由な創造性が生む「負の側面」への対応が今後の経済社会における新たな重要課題になるのではないか。

第3章 デジタル経済化と消費者の変化、デジタル経済下の消費者行動:新たな消費の出現とマーケティング対応

第3章 デジタル経済化と消費者の変化(3年 太田)

本章は、デジタル化の進展のもとで、消費者がどのように変化し、その変化によって生じた新たな消費形態について論じている。デジタル空間の成立により、人々の社会的つながりは多極分散化・匿名化し、消費者のアイデンティティ形成のあり方が変化した。その結果、消費者は製品やサービスの選択を通じて自己を表現・構築するようになり、新たな消費形態が生まれている。

本章は大きく三つの観点から構成される。第一にデジタル化による社会および消費者の変化、第二に消費を通じたアイデンティティの構築、第三にそれらが具体的な消費の拡大にどのようにつながっているかである。

まず、デジタル化がもたらす社会の変化として、リキッド・モダニティとデジタル空間の成立が指摘される。リキッド・モダニティとは、社会的枠組みが流動化し、個人のアイデンティティや生活様式が固定されない不確実な状態を指す。この中で特に顕著なのが人間関係の流動化であり、職場や地域との結びつきが弱まる一方で、SNSを通じた選択的で流動的なつながりが強まっている。また、デジタル空間の成立により、つながりは多極分散化・匿名化し、社会的属性から解放された関係構築が可能となっている。

次に、消費を通じたアイデンティティの構築についてである。ここでは、アイデンティティが受動的に与えられるものから、能動的に選択し続けるものへと変化したことが指摘される。消費を通じたアイデンティティの構築の今日的特徴として、第一に流動性を重視した「アイデンティティ・プロジェクト」があり、その時々の適切性を優先する意思決定や、即時的満足を重視する「リキッド消費」が志向される。第二にアイデンティティの多元化があり、複数の自己を並行して構築し、状況に応じて使い分けることで、変化への適応やリスク分散が図られる。デジタル空間はこれを容易にし、新たな自己の構築を可能にしている。

そして、こうした変化に基づく新たな消費形態についてである。第一に、価値観や所属意識を表現する「政治的消費」が拡大している。これは購買や不買を通じて社会的立場を表明する行為であり、SNSによるコミュニティ形成によって支えられている。第二に、柔軟で短期的、アクセス・ベース、脱物質的な「リキッド消費」が広がっており、柔軟性や即時性、離脱容易性といった価値が重視される。第三に、「秘密消費」がある。これは他者に隠す意図を伴う消費であり、デジタル技術によって実践が容易になっている。特定のコミュニティ内で共有されることで帰属意識を高める側面も持つ。

最後に、本章ではすべての消費者がリキッド消費を志向しているわけではない点も指摘されている。過度な流動性がもたらす不安や疲労に対する反動として、安定性や継続性を重視する「ソリッド消費」(LOHASやスローライフなど)が再評価されている。今後は、このようなカウンター・カルチャーや消費も含め、アイデンティティ構築のあり方と消費の形態はさらに多様化していくと考えられる。

本章を読んで、デジタル化によって生まれた消費のあり方を、自分の身近な経験と結びつけて理解することができた。私はSTARTO ENTERTAINMENTのタレントのファンであるが、ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の問題が取り上げられた際、それでもタレントを起用していた企業の商品をファンが積極的に購入し、その行動をXで共有する様子が見られた。こうした行動は自然な応援だと感じていたが、本章を通じて、価値観を表明しコミュニティとのつながりを強める消費として捉えられると分かり、印象に残った。また、このような消費は他者との共有を前提とする点で、個人の選択が周囲の影響を受けやすい側面もあると感じた。今後は、自分の消費行動についても、その背景にある価値観や社会との関係を意識して捉えていきたい。

第11章 デジタル技術の登場とマーケティング対応、デジタル経済下の消費者行動:新たな消費の出現とマーケティング対応

第11章 デジタル技術の登場とマーケティング対応(3年 安藤)

本章は、購買意思決定におけるAIの提供価値とAIをマーケティング手段として活用するための指針についてまとめられている。デジタル技術の登場によってAIを取り入れたマーケティングをする必要に迫られている。しかし、そのためにはAIが消費者の反応を知ることが不可欠であり、AIが有効な手段となるには消費者が意思決定をする過程でAIが何らかの価値を提供している必要がある。

本章では、3つの順序で考察が進められており、第1に、営業について、第2に、購買意思決定プロセスにおいてAIが提供する価値についての考察、第3に、AIを含めたマーケティングのどのようなパターンが有効となるのかについてである。

➀本章内で、営業はAIに類似したマーケティング手段として取り上げられている。営業の価値には、第1に、コミュニケーション価値があり、それは情報価値とアドバイス価値に分類される。情報価値とは消費者が購買意思決定において誤った選択をすることで生じる損失(機会費用)を削減することで価値を生み出すことであり、アドバイス価値とは商品の上手な使い方を消費者に助言することによって価値を増大させることであり、付加的サービスでもある。第2に、コスト削減価値があり、こちらも探索コスト削減価値と買物コスト削減価値の2つに分類できる。探索コスト削減価値とは消費者が行う情報探索などに費やすコストを削減することによって価値が増大することであり、買物コスト削減価値とは時間コストなど買物に関するコストの削減によって生じる価値のことである。また、営業は双方向性と個別性を持った情報源である。

➁AIは➀で挙げた営業に類似した役割を持っていると考えられ、コミュニケーション価値においては情報提供型AI、アドバイス提供型AIが当てはまり、コスト削減価値においては探索コスト削減型AI、買物コスト削減型AIが当てはまり、一部の企業はこれらを実際に取り入れているか、または導入の準備をしている。

➂➁で挙げた4つのAIタイプは消費者の購買行動の特性によって異なる。ここでは関与と知識の2軸で購買行動のパターンが分けられており、高関与・高知識または高関与・低知識では豊富な選択肢/わかりやすい情報を求め、対話型AIや分野特化型AIが適合している。一方、低関与・高知識または低関与・低知識ではシンプルな情報を求め、買物代行型AIなどが適合する。また、これら4つのパターンは消費者の違いだけでなく商品や購入する頻度、場面などによっても異なる。

以上より、AIを含めマーケティングは消費者の関与の水準によって大きく変わる。変化の大きいデジタル化社会であるほど、マーケティング担当者は消費者行動に関するフレームワークを知ることが重要である。

本章を読んで、消費者の購買意思決定プロセスにおいてAIが関与している点が多くあると思った。本章の探索コスト削減型AIの例として挙げられていたアシックスの、自分が求めるシューズの特徴(価格、競技、色など)を打ち込むとAIがおすすめのシューズを提案してくれるサービスは私自身も利用したことがあり、無意識に自分の購買意思決定における情報探索のコストをAIによって削減してくれていたのだと知った。