ジェネリックスキルの向上

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あんまり聞き慣れない用語だと思いますが、昨今ジェネリックスキルなるものの向上が、授業の目的の一つとして取り上げられるようになってきました。ジェネリックスキルとは、その名の通り一般的で汎用的なスキルであり、特定の授業でのみ獲得される知識や能力とは別に、例えばプレゼン能力であったり論理的思考であったり何にでも利用可能なスキルのことを指します。これらのジェネリックスキルは、特定の授業において知識や能力を獲得するための前提でもありますが、同時に、それぞれの授業によって改めて獲得されたり、向上することが求められるというわけです。

通常の授業で、例えば学生の皆さんにプレゼン報告をしてもらうという場合、その作業を通じてプレゼンの「内容」を考え、理解してもらうということが主課題です。しかし、これに合わせて、ジェネリックスキルの獲得や向上という場合には、プレゼン報告のやり方自体を学び、経験し、よりうまくプレゼン報告できるようになってもらうという課題もまた、単なる副産物としてではなく、ある程度明示的な主課題として意識する必要があることになります。

いいのか悪いのかはさておき、一つの時代の流れのような感はあります。もともとプレゼン報告などはよくある授業の手段だったわけですが、上手い方と下手な方がいて、下手な方の番だとその回の課題についてのクラス全体の理解が下がるという問題がありました(逆に上手い方だと上がるわけで、どんな報告もできるだけ上振れするように差配するのが教員の仕事の一つ)。この時、ジェネリックスキルの向上といった課題が設定される場合には、むしろプレゼン慣れしていない下手な方にも、プレゼン自体の練習としてがんばってもらうことに、より積極的な意義がでてくることになります。

プレゼンに限らず、授業中に発表して喋ってもらうといった方法も、一つの能力の獲得や向上作業だと考えられます。発表点をつけますよといった場合には、単に発表を授業への参加態度ですとか、授業内容を理解しているかどうかで評価するのではなく、発表すること自体を、例えばコミュニケーションの一つの練習として評価することになります。こうなってくると、テストで点数取れればすべてオーライともならないことになるわけで、いろいろと作業は増えそうです。

たぶん、その分専門的な知識や能力のクラス全体での獲得はちょっと犠牲になりそうです。時間が限られている以上、何かを獲得しようとすれば、何かの獲得は諦める必要があるということだと思いますが、この手の議論は、往々にして一石二鳥、一挙両得を狙いますね。特にジェネリックスキルという場合には、冒頭に述べたように専門知識の獲得と向上の前提や手段でもあり、ループとまでは言わないまでもちょっと複雑になります。どこまでジェネリックスキルの向上や獲得をどの程度の目標とするのかについては、もう少しちゃんと考えた方が良さそうです。


2021年02月11日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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