具体と抽象


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いつでしたか、マーケティング学会で楠木先生がこの話をしたことがあります。「具体と抽象を繰り返す」という発想は一般的でもあろうかと思いますが、なるほどと思った次第でした。

何を聞いても柳井正の答えがブレない理由

このアイデアは、色々と汎用性があります。例えば、中原先生のブログに出てくる事例くれくれ君なども、この典型だと思います。個人的には、このオルタナ・パターン、「失敗事例をくれくれ君」にも時々会いますが、同型です。

「他社の事例」をいくら聞いても、さっぱり活かせない「事例くれくれ君」にご用心!?

カツ丼がダメだったから天丼にする。この事例はダメだからあの事例にする。これらに共通する問題は、具体だけを横滑りしていくということです。お二人の先生とも、そうではなく、具体から抽象へ至るプロセスを「原理を磨く」や「メタに上がる」として重視し、さらにはそこからまた具体に戻るという循環を評価しています。

私が以前書いたこちらも、だいたい同じような問題なのかなと思います。

ビジネススクールで修士論文を書くということ

ここでは先行研究がないことに困る院生を紹介していますが、それは具体しかみていないからです。一旦抽象に至る術を覚えれば、今度は逆に、先行研究は無限に似た広がりを見せることに気づくでしょう。そしてこの場合には、むしろ多くの人は、無限に恐怖するがゆえに「あえて」具体に固執するように見えるという点が興味深いところです。抽象に上がるというのは、覚悟がいるものだと思います。

この覚悟をより小さなものにする。無限を最初から限定しておいてあげるということは、具体と抽象を繰り返すことができるようになるための訓練の方法かもしれません。例えば、ファイブ・フォーシズやマーケティング・ミックスのような枠組みを提示しておくことで、抽象において捉えるべきポイントを最初から4つか5つに絞り込んであげておく。こうすれば、無限に比べれば格段に抽象に上がりやすくなる。ひいては降りて来やすくもなる。この降りて来やすくするというのも大事なところで、先の事例くれくれ君の場合も、抽象的な話とともに、具体例も示してあげるというやり方は意味があろうかと思います。

あとこのアイデアは、以前書いた本の話ともだいたい整合的なのだと思います。

本質直観のすすめ。

「なぜカツ丼をまずいと感じたのか」を問うことは、多分本質直観的で、「なぜこれをリンゴだと思っているのか」を問うことと同じだと思います。と考えると、要するに具体と抽象を繰り返す訓練をすることが大事ということになりますでしょうか。

いくつかもう少し考えておいた方がいいかもしれない点を思いつくままに。例えば、これは成功要因(失敗要因)を探すという話と同じでしょうか。それとも違いますでしょうか。あるいは、一般化を目指すという話と、抽象化するという話とこれは同じでしょうか。それとも違いますでしょうか。個人的には、近いけれど、何かが違う、と感じます。


2018年09月04日 | Posted in エッセイ | | Comments Closed 

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