ヘンリー・ミンツバーグ『私たちはどこまで資本主義に従うのか―――市場経済には「第3の柱」が必要である』、ダイヤモンド社、2015。
先にコトラーの「資本主義に希望はある」を読んだ上で、もう一つ一緒に買っていた本、「私たちはどこまで資本主義に従うのか」(原著名は、Rebalancing Society)を読み始める。分量からいえばずいぶんと軽めで、簡単に読めそうだ。と同時に、著者はヘンリー・ミンツバーグ。こちらは戦略論の大家である。コトラー同様、社会にひとこと言いたいのだろうか。そういえば、どちらの書籍も、ダイヤモンド社から発売されている。社会にひとこと言いたいのは、出版社の方かもしれない。
コトラーと同じかもしれないが、冒頭のキレは鋭い。少し長いが引用しておこう。
「1989年、東欧の共産主義体制が倒れはじめたとき、西側諸国の有識者たちは安易な説明に飛びついた。資本主義が勝利したーそう主張したのである。しかし、それはとんでもない間違いだった。その誤解がいま大きな不幸を生み出している。
1989年に勝利を収めたもの、それはバランスだった。共産主義体制の国々は、政府セクター権力が過度に集中し、著しくバランスを欠いていた。…その後、多くの(西側諸)国でバランスが失われていった。民間セクターの力が過度に強まったのである(4頁)。」
資本主義そのものがもたらす問題というよりは、この整理により、本当の問題は民間セクターが強くなりすぎたというアンバランスにあることになる。そういえばフランシス・フクヤマが何度も批判されている。そして、その解決として、「多元セクター」と称されるNPOや第三のセクターや市民社会と呼ばれてきたような新しい第三極の促進が必要であると指摘される。コトラーの本が主に課題提示だけにとどまっていたのに対し、ミンツバーグの方はわかりやすい方向性を提示している。
この構成により、ミンツバーグの批判の対象は、強くなりすぎた民間セクターと、弱くなりすぎた政府セクターへと向けられることになる。コトラーが解決の方法を明示できなかったのは、企業と顧客の不可分な結びつきに留意し、マーケティングらしくあろうとしたせいかもしれない。これに対して、ミンツバーグは問題の所在を変更することで、よりキレのある展開を可能にしている。戦略論らしいといえるだろうか。
企業に対しては、例えばCSRが批判される。「『社会にとって好ましいことをして、利益をあげている』企業は、もちろん称賛に値する。…しかし、この種の取り組みが産業界全体に広がって、利益の追求と社会問題の解決が両立する『ウィン・ウィン』の世界が到来するなどとは、期待しない方がよい(94頁)」。一方で政府セクターに対しては、例えばNPMが「古くからある企業経営の手法」として批判される。「政府の活動のほとんどは、ビジネスのようにマネジメントできないからこそ、政府が担っているのだ(152頁)」。
ミンツバーグが強調するのは、要するにバランスである。それぞれがそれぞれの役割を果たし、力として拮抗する。その上で、2つの対立ではバランスが取りにくいことがわかったのだから、多元セクターの育成が今求められているというわけである。同時に、それゆえに多元セクターが将来的に強まりすぎることも望ましくはない。ポピュリズムの弊害が大きくなる可能性があるからである(78頁)。
そんなに批判したいポイントもないのだが、逆にいえば、大体は読まなくても見えてしまうという感もある。本を書くのは難しい、と人事のように思いました。