中原淳他『人事よ、ススメ!』碩学舎、2015。

 2013年の春から夏にかけて、慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)にて、例年のとおり中原先生をコーディネーターとした人気講座「ラーニングイノベーション論」が開催された。本書は、そこで行なわれた12講を一冊の書籍としてまとめたものである。ちなみに中原先生はこちら↓

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写真:株式会社 Trinity

 教育をテーマにした授業や本は面白い。というのも、これはメ・タ・的だからである。教育をテーマにした授業では、教育(の方法)を、その方法を使って教育するのだ。そうそう、と思った人は、きっとそのまま教育に向いている人であろうし、はて?と思った方も、まずはこの面白さを感じるところから勉強を始めることができる。

 本書(あるいはベースになった授業)は、このメタ的な側面がとても意識されている。一つ一つの授業が、この本でいえば一講一講が、それ自体、受講者がそれぞれの現場に戻った後に利用可能な教育の方法である。例えば、松尾先生の反転授業を通じて反転授業を学ぶことで、その後、自分でも反転授業を行うことができるようになる。あるいは、高尾先生のインプロ授業を通じてインプロを学ぶことで、その後、自分でもインプロを行なうことができるようになる(さすがに本でインプロするのはちょっと難易度高いかも)。ラーニングイノベーションが意味するのは、人材開発に携わる上で、こうしたメタ的な側面を身につけるということだろう。

 教育論は、理論重視(やり方をしっかり教えよう、学ぼう的な)と実践重視(現場の中で師匠の業を盗むのだ的な)を揺れながら発展してきたという。本書の12講もまた、これらの両極を意図的に行き来しながら議論が進む。けれども、たんに2つとも大事だということが結論にあるわけではない。より重要なのは、これらの議論を通じて、そうしたメタ的な側面を丸ごと理解するということである。

 もしかすると、メタ的な側面は、教育の授業に限らないのかもしれない。例えば、マーケティングの授業でも同じことを考えられる。マーケティング活動では、細かいところはいろいろあるものの、総じて「この商品は良いものですよ」と伝える必要がある。ということは、マーケティングの授業では、この商品は良いものですよというための方法を、実際にその方法を使うことで、「ほら、この授業は良かったでしょ」とわかってもらうことになる。どうやら、教育は、総じて、これは大事だよ、と言うことを伝えることになる。このとき、「これ」という対象と、「これは大事だよ」という行為が、入れ子というか再帰的というか、そういう構造をとる。

 だからしばしば、おまえが言うな的な、つっこみもありうる。ただ、この点では、教育を授業する時の方がシビアだろう。マーケティングができなくとも、マーケティングの方法を教えることはできる(と、、思う)。けれども、教育ができなければ、教育の方法を教えることはできない。本書の登壇者たちは、その緊張感を感じながら、その緊張感自体をうまく伝える術があったように感じる。

 あるいは逆に、このメタ的なセンスのようなものが身に付くと、今度は、どういうつまらない授業を聞いても、面白く学ぶことができるようになる気もする。授業の中で、中原先生が運転免許の講習を受けた話をしていて、普段は面白くないのだけど、今回は気分を変えて「これは面白い面白い、へーそんなことあるんだ!マジか?知らなかった!」といちいち驚きながらメモをとって受けるようにしたら、めちゃめちゃ面白くなってすぐに時間が経ってしまったという。ようするに、そういうことかなとも思った次第(これは、、本にも残ってましたかね?)。

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